前回のポスト「思考を整える ~役員への貸付をBSから消すには ②~」から時間が空いてしまいしたが、早速その続きを。
まず、
②資本取引を駆使したヴァーチャル的なアプローチとは、
実際、どんな方法を考えれば良いのでしょうか。
これは、ずばり、自己株式の取得を意味します。
役員への貸付金を自働債権、
会社が、役員=株主から、自己株式を取得する際の代金を受動債権として相殺するわけです。
その結果、役員への貸付金は消え、
役員株主としても、ストックとフローのリアルな減少を避けることができ、
当初のミッションは本質的にクリアされるわけです。
この点、役員株主は、その財産としての会社株式というストックがリアルに消滅するのではないかという指摘もあると思いますが、
今後、会社が増資するときなどに割当株式としても使用できることを考えると、
緩やかに資産を付け替えたにすぎない、
つまりヴァーチャル的に資産を移転したにすぎないといえますし、
本来、不動産や金銭に比べて、著しく流動性の低い中小企業の株式ですが、
逆にこういった局面では、同価値な資産であれば、より流動性の低い資産のほうが有利なわけですから、
優先的に検討するべきだと考えます。
ただし、自己株式の取得を利用するためには、
大きなハードルをクリアしなければなりません。
それが、配当可能額の範囲です。
つまり、自己株式の取得は、剰余金の配当と同義ですから、
取得する自己株式の評価額を超える剰余金が会社になければ取得ができないことになります。
そして、剰余金がなければ、これをなるべく早く確保するためには減資をして剰余金に振り替えるしかありません。
当然、減資となると、債権者保護手続を要しますから、
各金融機関等への事前説明と公告というハードルが待っていますが、
これは、各専門家の技量でもってクリアしていくことになります。
そして、最後に、②のアプローチに係るコストの関係を検討しましょう。
具体的には、以下のとおりとなります。
・自己株式取得に関する譲渡所得とみなし配当課税
・減資とその登記関連費用
そうすると、特に減資が組み合わった場合の手続費用が無視できないボリュームになってくるはずです。
減資がなければ、対コストではベストバランスとなるのですが、
これに減資が加わると、コスト+手間はトレードオフの関係になってしまいますので、
最終的には
①のアプローチ
②のアプローチ
に加えて、「何も手続きをしない」という選択肢も出てきます。
あとは、顧客のニーズと今後の事業展開という経営哲学に立脚して、会社自らがこの選択肢から決定するだけです。
(結局どのアプローチを選択したのかは、守秘義務もあるので述べられませんが、何卒ご容赦下さい。)
ちなみに、③その他のアプローチというのは、
主に第三者の介入を前提とするもので、
たとえば、債権譲渡、事業譲渡、会社分割、スポンサーなどが思いつきましたが、
いずれも現実的なアプローチではないので、ここでは割愛します。
以上が、私の思考です。
最後に、企業法務と向き合う際には、
より多くの法的アプローチによって検討することが大事であると考えています。
これは、逆のパターン、
たとえば、「減資したい」という相談が寄せられたときに、
本当に「減資」がベストチョイスなのかという思考でも活きてきます。
会社の営利活動はリアルなものですが、
会社法は、ヴァーチャルです。
これらを有機的に結び付けるのが、企業法務の役割ですから、
取扱う専門家には、柔軟で幅広い知識が求められているのではないでしょうか。
赤尾